実績ゼロでも大丈夫! ブランディングパラレルワークのための「架空案件」設定と進め方
ブランディングの知識を独学で学び、いざパラレルワークを始めたいと思っても、「実務経験がないため、ポートフォリオに載せる実績がない」という壁に直面する方は少なくありません。クライアントワークの経験がないと、自分のスキルをどのように示せば良いか分からず、最初の一歩を踏み出すのが難しく感じられるかもしれません。
しかし、実務経験がなくても、ブランディングスキルを具体的に形にして示す方法は存在します。その有効な手段の一つが、「架空案件」に取り組むことです。本記事では、この架空案件をどのように設定し、実務に近い形で進めていくことで、未経験からでも質の高いポートフォリオを作成する具体的なステップをご紹介します。
ブランディングパラレルワークにおける「架空案件」の重要性
実務経験がない状態で案件を獲得するためには、クライアントに対して自身のスキルや思考プロセス、そしてどのような成果を提供できるのかを示す必要があります。そのための最も効果的なツールがポートフォリオです。
しかし、実績がなければポートフォリオは空の状態になってしまいます。そこで役立つのが架空案件です。架空案件とは、実在しないクライアントや事業、あるいは既存の企業などが抱えているであろう「課題」を想定し、それに対するブランディングの提案や施策立案、デザイン制作などを一連のプロジェクトとして進めることです。
架空案件に取り組むことで、以下のようなメリットが得られます。
- 実務に近いプロセスを経験できる: ブランディングの座学知識を、リサーチ、分析、戦略立案、具体的なアウトプットへと繋げる一連の流れを模擬的に体験できます。
- 思考プロセスを可視化できる: なぜその戦略を選んだのか、どのような調査に基づいているのか、といった思考の過程をドキュメント化する練習になります。これは、クライアントへの提案において非常に重要です。
- 具体的な成果物を作成できる: コンセプトシート、ブランドガイドライン、ロゴデザイン、Webサイトのモックアップなど、目に見える形でスキルを示す成果物を作成できます。
- ポートフォリオの基盤となる: 作成した成果物とプロセスは、そのままポートフォリオの主要なコンテンツとして活用できます。
- 自信を持って提案できる: 実際のクライアントワークに近い経験を積むことで、自身のスキルに対する自信を深めることができます。
架空案件は、単なるデザインの練習ではなく、クライアントの課題解決というビジネス視点を持ったブランディングの実践練習となるのです。
架空案件の設定ステップ
質の高い架空案件に取り組むためには、その「設定」が非常に重要です。単に何かを作るのではなく、具体的な課題解決を目的としたプロジェクトとして設計します。
ステップ1:テーマ・クライアントの選定
まずは、どのような架空のクライアントや事業を扱うかを決めます。興味のある分野、これまでのキャリア(営業職の経験など)で培った知識が活かせる分野、あるいは社会的な課題など、様々な視点からテーマを選ぶことができます。
- 例:
- 地元の小さなカフェのブランディング再構築
- 新しい健康食品ブランドの立ち上げブランディング
- 特定の地域に特化した旅行サービスのブランディング
- IT企業の新規サービスの社内ブランディング
テーマが決まったら、そのクライアント(企業、店舗、サービスなど)がどのような存在か、詳細なペルソナを設定します。
- 設定項目例:
- 事業内容、提供サービス・商品
- 企業文化、経営者の考え
- 現状の課題(売上低迷、認知度不足、ブランドイメージのブレなど)
- 理想の状態、目指す姿
- ターゲット顧客層
- 競合他社
このペルソナ設定は、実際のクライアントヒアリングを想定した重要な練習になります。深く掘り下げて設定することで、後のリサーチや戦略立案が具体的に行えます。
ステップ2:課題と目標の設定
設定したクライアントは、具体的にどのような課題を抱えているのか?そして、そのブランディングによって何を達成したいのか?という課題と目標を明確に定義します。
- 課題例:
- ターゲット層に魅力が伝わっていない
- 競合との差別化ができていない
- 価格競争に巻き込まれている
- 従業員のエンゲージメントが低い(インナーブランディング)
- 目標例(具体的なKGI/KPIを設定):
- 特定のターゲット層からの認知度を〇〇%向上させる
- ブランドへのポジティブなイメージを〇〇%増加させる
- Webサイトへの〇〇からのアクセス数を〇〇倍にする
- 顧客単価を〇〇%向上させる
課題と目標が曖昧だと、プロジェクトの方向性が定まりません。具体的な数字や状態を設定することで、プロジェクトの成功基準が明確になります。
ステップ3:プロジェクトの範囲とアウトプットの設定
架空案件といえど、無限に時間をかけられるわけではありません。現実的な範囲を設定し、どのようなアウトプットを目指すかを具体的に決めます。
-
範囲設定例:
- 戦略立案フェーズのみ
- コンセプト設計からロゴデザインまで
- Webサイトの企画・構成、デザイン方向性の決定まで
- インナーブランディングのための社内資料作成
-
アウトプット例:
- ブランディング戦略シート
- ブランドコンセプトシート
- ターゲットペルソナ詳細資料
- カスタマージャーニーマップ
- ロゴマーク、ブランドカラー、フォントなどのビジュアルアイデンティティ
- Webサイトのワイヤーフレーム、デザインカンプ
- プロモーションメッセージ案
- ブランドブック(ブランドガイドライン)
これらの設定は、実際のクライアントとの契約時に行うスコープ定義や成果物リストの作成を想定した練習となります。
架空案件の具体的な進め方
設定が完了したら、いよいよプロジェクトをスタートします。実際のクライアントワークと同様のプロセスで進めることが、実務スキルを習得する上で重要です。
フェーズ1:リサーチ・分析
設定したクライアント、ターゲット、競合、市場、トレンドなどについて徹底的にリサーチを行います。
- リサーチ方法例:
- 公開されている業界レポートや統計データの収集
- ターゲット層のオンライン上での活動や口コミの調査
- 競合企業のWebサイト、SNS、プレスリリースなどの分析
- 関連するデザインやブランディングの成功事例、失敗事例の調査
集めた情報に基づき、SWOT分析(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)や3C分析(Company, Customer, Competitor)などのフレームワークを用いて、設定したクライアントの現状を多角的に分析します。ここで独学で学んだブランディング理論やフレームワークを実践的に活用する機会となります。
フェーズ2:戦略・コンセプト策定
分析結果に基づき、設定した課題解決と目標達成のためのブランディング戦略を立案します。
- 検討項目例:
- ブランドの核となる「提供価値」(Value Proposition)
- ターゲット顧客にとっての魅力的な「ポジショニング」
- ブランドの個性となる「ブランドパーソナリティ」
- 顧客との接点(タッチポイント)における体験設計
これらの要素を統合し、ブランドの方向性を示す「コンセプト」を策定します。なぜその戦略・コンセプトに至ったのか、論理的な根拠を示すことが重要です。
フェーズ3:具体的なアウトプット作成
策定した戦略・コンセプトに基づき、設定した具体的な成果物を作成します。デザインスキルだけでなく、情報設計やコピーライティングの要素も含まれる場合があります。
例えば、新しいロゴデザインを制作する場合、単に見た目が良いものを作るのではなく、ブランドコンセプトやターゲット層の嗜好、競合との差別化などを考慮したデザインを開発します。また、そのデザインに至った背景や意図を説明できるように言語化することも重要です。
フェーズ4:ドキュメント作成とポートフォリオ掲載
プロジェクトの最終段階として、一連のプロセスと成果物を分かりやすくまとめたドキュメントを作成します。これが、ポートフォリオのコンテンツとなります。
- ドキュメント構成例:
- プロジェクト概要(架空クライアントの設定、課題、目標)
- リサーチ・分析で分かったこと
- 策定した戦略とコンセプト(なぜこの戦略を選んだのか、その思考プロセス)
- 具体的なアウトプットとその説明(デザイン意図など)
- プロジェクトを通じて得られた考察や学び
ポートフォリオサイトやPDF形式で公開する際は、架空案件であることを明記した上で、上記の要素をストーリー立てて見せることが効果的です。単に成果物だけを並べるのではなく、「どのような課題に対して、どのように考え、どのような解決策を提案したのか」という思考プロセスを伝えることが、あなたのブランディングスキルを示す上で最も重要になります。
架空案件をよりリアルにする工夫
架空案件は自由度が高い反面、独りよがりになってしまうリスクもあります。より実務に近い学びを得るために、以下の工夫を取り入れてみましょう。
- フィードバックを求める: 信頼できる友人、デザイン仲間、メンターなど、第三者に成果物や思考プロセスを見てもらい、率直なフィードバックをもらいましょう。自分では気づけなかった視点が得られます。
- 既存の成功事例を参考にする: 世の中にある素晴らしいブランディング事例を参考に、どのように考えられているのかを分析し、自分の架空案件に応用してみましょう。完全に模倣するのではなく、その考え方を学び取ることが重要です。
- プレゼンテーションの練習: 作成したドキュメントや成果物を、誰かに向けてプレゼンテーションする練習をしましょう。自分の考えを分かりやすく伝え、質問に答える練習は、実際のクライアントワークで非常に役立ちます。
まとめ:架空案件は最初の一歩を踏み出す強力な武器
ブランディングのパラレルワークを実務未経験から始めるにあたり、ポートフォリオの充実は避けて通れない道です。実績がないからと立ち止まるのではなく、架空案件を積極的に活用してください。
架空案件は、独学で培った知識を実践レベルに引き上げ、自身のスキルを具体的に可視化するための強力なツールです。本記事でご紹介した設定方法と進め方を参考に、ぜひあなた自身の「最初のブランディングプロジェクト」をスタートさせてみてください。
架空案件を通じて得られた経験と思考プロセス、そして具体的なアウトプットは、必ずあなたのポートフォリオを充実させ、自信を持って次のステップ、すなわち実際のクライアントワークへと進むための大きな推進力となるはずです。応援しています。